相続財産は、必ずしも相続をしなければならないということはありません。被相続人の財産を相続する権利のすべてを放棄することができます。相続放棄は、はじめから相続人とならなかった、とみなされるようにする意思表示です。『私は相続しません』と誰かに伝えたり、宣言したりすることではなく、相続権利を放棄する法律上の行為です。
かつて明治民法では家督相続を義務づけられていましたが、1947年の家族法改正により家督相続が廃止され、相続人に当然相続主義による不利益を回避できるよう相続放棄が認められました。
相続放棄は、自由であり、相続債権者に損害が及ぶとしても権利の濫用とはなりません。また、相続放棄は財産を相続する権利のすべてを放棄するため、たとえば土地は相続して借金は相続しない、という条件をつけることはできません。プラスの財産とマイナスの財産の両方を放棄することになります。
相続放棄の方式
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄は、意思表示をするだけではなく、家庭裁判所に所定の手続きをしなければなりません。上述したように、相続しない意思を発する行為ではなく、法的な手続きをして家庭裁判所から認めてもらうことで成立します。
被相続人が亡くなり、自分に相続があることを知った時点から3ヶ月以内に申述しなければなりません。この期間が経過した場合や、相続財産の全部または一部を処分した場合には、単純承認(相続財産をすべて相続すること)にしたこととなり、放棄をすることはできません。
相続開始の前(被相続人が亡くなる前)に相続放棄をすることはできません。被相続人または共同相続人との間で相続放棄の契約をすることもできません。相続開始となってはじめて相続放棄をすることができます。
なお、相続放棄を申し出ることは一度限りで、家庭裁判所から認めてもらえなかった後に再度申述することはできません。
相続放棄の申立権者
未成年者や被保佐人、被補助人が相続放棄の申し立てをするには、法定代理人(親権者や補佐人、補助人)の同意が必要です。未成年者や被保佐人、被補助人に代わり法定代理人が相続放棄を申述することもできます。
相続放棄の取り消し・無効
相続放棄の撤回はできませんが、相続放棄の取り消しは認めらる場合があります。未成年者や被保佐人、被補助人が法定代理されず、または同意を得ないで申述した場合や詐欺・強迫によって申述した場合、後見人が後見監督人の同意を得ずに申述した場合に、家庭裁判所に申述することができます。
相続放棄の無効に関する規定はありませんが、実質的要件を欠く場合に、訴訟によって無効を主張するケースがあります。特段の事情によって申述書に自署がなく記名押印はあったという判例では、相続放棄が有効だと審判されています(最三小判昭和29年12月21日)。
二重資格の放棄
同一人が相続の権利を二重に持つ場合、それぞれの資格を選択して放棄できるかという問題があります。相続資格の重複とは、たとえば被相続人の弟が養子に入っているという場合に、養子という立場では放棄して、弟という立場では相続をするというケースです。
かつては被相続人との続柄が要求されていませんでしたが、現在は相続放棄の申し立ての際に続柄の記載が必要なので、相続放棄をする立場が明らかになることから、他の立場での相続は有効とされています。